針治療効果ないというのは本当か?9つの視点から現役鍼灸師が解説

治療の効果はない。実際に聞くことも多いです。鍼灸師としてはなんとも悲しく悔しい気持ちもあります。

だけど、一般的な事実として「針治療は効果がない」と言わざる得ないことも多々あります。しかし、針治療に効果はあります。

→※あくまでも個人の意見です。

というおまけ付き……。今回は、針治療の効果がないといわれる理由と、針治療のエビデンスがない理由を現役鍼灸師として9つの視点から解説します。

針治療効果ないといわれる9つの理由

1.WHOのあやうさ

世界保健機関(WHO)が定めた鍼灸効果の適応症でも書きましたが、針治療の適応疾患として世に出回っているベースがWHOで決まった48種類の疾患です。

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WHOってコロナ禍を体験中のみなさんご存知「テドロスさん」が議長をつとめる”あれ”です。

そして、WHOが発表した鍼灸の適応症は、1979年6月北京で作成されました。

そう中国です。

「コロナは武漢研究所が起源」説をWHOは、根拠なしとして一段落している状態です。

この発表を「わかった」と思う人と、「んな、アホな」と思う人、それぞれいたことでしょう。私は後者です。

「針治療効果は、北京で発表されたWHOの鍼灸の適応症で立証されている」と、いくら叫んでも、コロナ禍を体験した人からすると「んな、アホな」「WHOと中国の発表でしょう? 針治療効果ないやん」と思われる可能性が高くなるでしょう。

 

2.圧倒的に臨床試験(論文)が少ない

ネットが普及して老若男女だれでも医学論文を調べることが可能になりました。

鍼灸の先生で医学論文を調べたことがない人はいないですよね??

ネットで検索すればわかりますが、針治療(鍼・灸)の臨床試験(論文)は、現代医学と比較すると異常に少ないです。

すごい鍼灸師の先生が、バンバン効果を出していたとしても、一般論として「じゃあ根拠は?」といわれると、ぐうの音も出ないです。

Google Scholarで検索すると針治療の臨床発表も出てきますが「◯◯の一症例」が多く、懐疑的な人に「ラッキーパンチじゃね?」といわれると、「ですよね……」と反論できなくなります。

臨床発表が少ない理由のひとつが養成機関です。針治療の養成機関は、3年制の専門学校がほとんど。4年制の大学もありますが通常の医学部と比べると圧倒的に少ないです。

鍼灸専門学校で臨床試験(論文)を発表することはまずないでしょう。少なくても私の卒業した鍼灸専門学校ではありえません。

「針治療効果ない」といわれても、「いやいや万単位の症例をまとめた論文あるぜ」といいたいものです。

 

3.実際の針治療と臨床試験の施術方法が違いすぎる

針治療の研究をした論文が少ないとお伝えしました。もちろんない訳ではありません。だけど、実際に患者さんにおこなう針治療と、試験用の針治療が違いすぎます。

「◯◯の症状に、三陰交穴への円皮鍼を両側に貼る」以上。みたいな感じです。

臨床試験なので当然ですが、実際の針治療より効果がないと考えるのが自然でしょう。

どうしても針治療は職人技になることが多いです。

経験や感が施術の大部分を占めています。万人が共通した針治療ができるようにシステム化された中国式の鍼灸でも経験の差は大きいでしょう。

「針治療の一症例」や「大学での研究発表の症例」を読んで、「いやいやこの症状なら◯◯しないとダメでしょ」と思う鍼灸の先生は多いはず。

統一化した針治療の発表が微妙な「針治療の効果が期待できる」「鍼灸治療の研究が進むことを期待する」となり、「針治療の効果があるのかないのか微妙」と思われるでしょう。

 

4.針治療とひと括りにできないほど流派が多い

さきほど、実際の針治療と臨床試験の施術方法が違いすぎるとお伝えしました。しかし、鍼灸師がびっくりするほど針治療には流派があります。

針治療を経験した一般のかたも、「以前の鍼灸院は◯◯していたのに、ここでは△△なんですね」ということを経験するでしょう。

ざっくりわけても、

  • 伝統的な日本式の鍼灸(経絡治療)
  • 中国でシステム化された中医学ベースの鍼灸(中医鍼灸)
  • 筋肉や筋膜を考慮した解剖学的な鍼灸

一般のかたかすると「??」でしょう。

経絡とか気とかで考えるのが経絡治療、中医鍼灸。
現代医学的に考えるのが解剖学的な鍼灸。

この流派の多さも「針治療って効果ないよね」といわれるひとつです。

実際は個人の技術や経験の差のことが多いのですが、一般論として針治療としてひと括りにされるでしょう。

当院は初診で来院された患者さんに、針治療の経験のある・なしを伺います。その結果、経験ありの人でも「針治療の効果がなかった」といって、整体を希望される患者さんも多いです。

鍼灸の認知度が低いので、針治療はひと括りになるのでしょう

ラーメンなら「駅前のラーメン屋は美味しくなかった」。だけど、「隣町のラーメン屋は美味しい」と比較対象が多いので、「ラーメンは美味しくない」とはなりませんよね。

また、歯医者さんの治療はイメージがつくと思います。

施術のイスに座る→自動で仰向けになる→口開ける→歯を削る→口をすすぐ

針治療の場合

鍼を刺す。は共通ですが、前後のプロセスが違うので、もし私が知らない鍼灸の先生の施術をうけるにしても緊張します。

「針治療の効果がない」といわれる理由として、鍼灸の認知度の低さ・針治療の流派の多さが原因のひとつになるでしょう。

 

5.針治療は「副作用がない」「無痛」と言い切る鍼灸師がいる

針治療の流派の多さも「針治療効果なし」といわれる理由ですが、どんどん自分の世界観を持たれる鍼灸師もいます。

日々の鍛錬から自分の世界観を作り上げたと思うので、技術や経験をお持ちの先生でしょう。だけど、「針治療には副作用がない」とか、「私の針治療は無痛だ」と言い切ると、ネット検索が当たり前になった時代には通用しません。

後ほど「全日本鍼灸学会学術大会」での発表を引用しますが、データの母数が増えれば副作用があらわれる患者さんが一定数いることがわかります。

ワクチン注射もそうですよね。ある一定数は副反応が出て当然です。

無痛に関しても、細い鍼や刺さない鍼を使用していると思いますが、痛みの感じかたは個人差が大きいものです。そもそも「無痛の定義」から説明しないと、無痛と聞いていたのに痛かった。という患者さんも一定数いてもおかしくないでしょう。

結果的に「針治療で内出血した」とか「針治療は痛かった」となると、針治療効果なしという以前に、ネガティブな感想が増える結果に。

私は、相対評価として「◯◯と比べると副作用は少ないです。」「注射針のイメージがあるなら、ほとんど無痛です。」と伝えています。

 

6.”気”で説明するからインフォームドコンセントが成立しない

インフォームドコンセントとは、

患者・家族が病状や治療について十分に理解し、また、医療職も患者・家族の意向や様々な状況や説明内容をどのように受け止めたか、どのような医療を選択するか、患者・家族、医療職、ソーシャルワーカーやケアマネジャーなど関係者と互いに情報共有し、皆で合意するプロセスである。

引用:インフォームドコンセントと倫理 日本看護協会

 

鍼灸の養成機関で必ず習うのがインフォームドコンセント。治療について十分な説明と、それに納得理解して同意するものです。

針治療の流派でもお伝えしましたが、

  • 経絡とか気とかで考えるのが経絡治療、中医鍼灸。
  • 現代医学的に考えるのが解剖学的な鍼灸。

解剖学的な鍼灸ならイラストや骨格模型などでの説明が可能でしょう。しかし、経絡とか気で説明して、理解できる一般のかたは皆無でしょう。

鍼灸の養成機関で最低3年間経絡とか気を学びます。これを数分~数十分での説明で理解は不可能です。

患者さんからすれば、針治療が終わって「おぉ全然痛くありません! 経絡で治療するとすごいですね。」

と、なるか

針治療が終わって「いや、まだ全然痛いんですけど、なにしてたんですか?」

ややオーバーですが、針治療の結果がともなわない場合、「なんかよくわからない気とかの説明うけたけど、全然針治療効果ないじゃん」という感想になるでしょう。

インフォームドコンセントがしっかりできていれば、「説明のときに筋肉の損傷があって、一般的に3週間が治癒期間といってな。まだ痛いけどだいぶましだ」という感想になるでしょう。

針治療の効果はあるけど、「説明不足or説明が理解されていない」。結果的に2回あれば効果があるものも、説明不足から1回で離脱されて、「針治療の効果はなし」だったと、残念な結果になるでしょう。

 

7.なぞの医学理論で洗脳する

針治療に限らず、整体治療でも一定数「なぞの医学理論」をお持ちの先生がいます。

「ガンを治せる」とか「脳性麻痺を治せる」とか。

もちろん本当に治った「一症例」はあるでしょう。ただし、専門医を論破できるかというとむずかしいでしょう。

藁をもつかむ気持ちの人は、洗脳されやすい状況にあり「薬は飲んではダメ」といわれて結果的に手遅れになったかたもいるはずです。

針治療でガンも治るかもしれません。ただ、針治療を受診される人は玄米食など「体にいいことはすべてやる」気持ちのかたが多い。客観的データがない限り、「針治療でガン治療のサポートをした」というのが正しい針治療では? と思います。

「針治療って根拠ない」=「針治療効果ない」にならないように客観的な視点はいつも持っていたいですね。

 

8.針治療に懐疑的・批判的なお話を論破できない

針治療のスタートは紀元前です。そのころ確立された理論がベースで現代も針治療をおこなっています。

鍼灸師からしたら当たり前ですよね。

ただ、懐疑的・批判的な人からの質問にすべてこたえられないと思っています。

「気」「陰陽」「五行論」「経絡」とか古典の医学書には、しっかり書かれていますが、調べれば調べるほど矛盾も多くなるでしょう。

鍼灸の学生時代に矛盾が多すぎて、国家試験のためだけに覚えた鍼灸師もいるくらいです。

そもそも矛盾が多い理論で施術して、針治療の効果出るんですか? その根拠は?
「2ちゃんねる」開設者のひろゆきさんにいわれたらガクブル状態です。

 

9.針治療の効果がないといわれる症状

海外の論文には、針治療の効果がないと解説した論文があります。

『絶対に受けてはいけない10のはり治療』からピックアップされた効果がないという症状について、実際どうなのか? 全日本鍼灸学会などが発表して、ネットで検索できる研究発表をもとに解説しましょう。

1. 妊婦に対するはり治療

1. 妊婦に対するはり治療。論文はこう指摘している。「陣痛誘発のためのはり治療は、効果または弊害を証明する十分な証拠がなく、推奨されない」

 

針治療効果ないという懐疑的な論文が、最初に伝えているのが妊婦さんへの針治療です。

論文内容に対して完全な反論とはいえませんが、針治療の可能性を一般のかたもわかっていただけるかもと思っています。

ただ、全日本鍼灸学会発表のまとめとして、

今後、本分野での鍼灸の有効性の研究を進めるとともに、臨床における安全性をさらに向上させることが望まれる。

まだまだ研究段階で安全性の向上も課題だと伝えています。

(2) 和痛分娩の鍼灸治療

②症例数
4~3000例の症例報告がなされ、全体で3072例が報告されていた。

③治療法と使用経穴
治療法は鍼通電、水鍼である(水鍼とは、経穴に生理食塩水や蒸留水、麻酔薬を注入する方法)。 使用経穴は、三陰交、足三里、合谷、太衝、内関であった。1論文で、次髎の水鍼が用いられていた。

④効果と安全性
効果の評価スケールは、Visual analogue scale や痛みの段階評価を用いて、産婦に尋ねていた。
効果は、ありとするものとそうでないものがあった。効果については、痛みの緩和の記載の他に、 分娩時間が短縮されたとする報告があった。安全性については胎児心拍や副作用について記載され、 有害事象の報告はなかった。

2)英文論文

②論文の種類
35件のうち、レビューと鍼通電がそれぞれ7 (20.0%)件、鍼と他の方法の報告5(14.3%)件、 水鍼経穴注射、鍼、Transcutaneous nerve stimulationがそれぞれ3(8.6%)件、その他7(20.0%) 件であった。

③使用経穴
使用経穴は三陰交のみであった。

④効果と安全性
効果は、痛みは軽減されるが有意差はない、硬膜外麻酔の使用量の軽減になる、分娩時間の短縮になると報告されていた。安全性は、副作がないことや胎児の安全性について報告されていて、有害事象の報告はなかった。

(2) 鍼灸治療による和痛分娩の課題
1)痛みの評価法評価スケールは産婦の痛みのVASや段階評価を用いているため、客観的評価に欠けるところがあると考える。

2) 和痛以外の効果
分娩時間の短縮につながっていることは、着目すべき点と考える。

 

ポイント
  • 和痛分娩に一定数の効果がありそう。ただ評価方法に客観性が欠けている場合がある。
  • 麻酔使用量の軽減や分娩時間の短縮にもなった。

 

妊産婦の鍼灸の適応について

1 妊産婦に鍼灸を行う際の適応は、いわゆる妊産婦のマイナートラブルであることが多い。具体的な適応を以下に挙げると、まず妊娠中の適応は、つわり、皮膚掻痒感、腰痛、肩こり、骨盤位などである。分娩中は、和痛分娩、また逆に陣痛促進が適応となる。分娩後は、乳汁分泌不全、後陣痛、膀胱麻痺などがあり、また帝王切開術後の傷痛、 腸蠕動促進に対して行われることもある。腰痛や肩こりは、妊娠中だけでなく、分娩後や帝王切開後の適応としても高い需要がある。

産婦人科医の笠井靖代先生の発表です。妊産婦さんへの鍼灸の適応範囲の広さを感じますね。私の経験や助産師兼鍼灸師の話からでも同じ意見です。

私は、産婦人科医で131例の帝王切開術を鍼麻酔で成功された飛松源治先生のお話をうかがう機会があり、その後自分自身の妊娠中に何度か診療所をたずねたことがある。飛松先生が書かれた文章の中に「鍼も催眠も心理機能が大きく関与するので、過度の緊張、恐怖、拒否拒絶の状態では効果が得られない。十分な効果を得るためには、術者と被術者の信頼感(ラポール)、十分に説明された理解(インフォームド・コンセント)を必要とする。」

ポイント

1:鍼が心理機能に大きく関与する

じゃあ偽鍼でもいいのでは? と、懐疑的な人からツッコミが入りそうです。ただ論文であるかは調べていませんが、ポジティブ思考とネガティブ思考だと治療効果が全然違います。

昔テレビ番組で、「会話によってお産への恐怖や緊張をとって無痛で出産」をおこなっている病院が紹介されていました。うーん思い出せない。

2:術者と被術者の信頼感(ラポール)、十分に説明された理解(インフォームド・コンセント)を必要とする

信頼関係を高めるには、十分な説明が必要だということ。これは産科領域に限ったことではないですね。針治療を検討中のかたは、うかがう予定の鍼灸院に問い合わせることをおすすめします。

電話だと迷惑になることが多いので、メールでどんな治療法なのか? 経験の有無など聞いておくと信頼感が高まるでしょう。

 

II. 妊娠前期における鍼灸治療の役割と可能性 せりえ鍼灸室 小井土善彦

2. つわりに対する鍼灸治療の有効性と安全性のエビデンス

世界的に評価されているコクランライブラリー (以下コクラン)のSRを検討した。Matthewsらが検討した論文は41編で、対象人数は5,449名であった。介入方法は、鍼灸のほかに指圧、ツボ刺激、ショウガ、カモミール、ビタミンB6、制吐薬などであった。鍼治療の有効性は、鍼治療群と偽鍼治療群とを比較したSmithら”とKnightらの論文が採用されていた。伝統的鍼治療群(148名)、内関鍼治療群(148名)、偽鍼治療群 (148名)に分け、悪心、dry retching(嘔気、嘔吐の変化を比較したSmithらの論文からは、有意差を示さなかった
治療開始から7日目のデータが採用されていた。また、悪心に対する効果を鍼治療と偽鍼治療に分けたRCT の報告”は、対照群と介入群との間に統計学的有意差はないとした。

Matthewsらは、それらの論文から、妊娠に伴う悪心や嘔吐を軽減するための鍼灸治療は、ほとんどの結果は有意差を示さないとした。一方、有害事象は、胎児や新生児および母体に関わる事象を調査したが、それらは報告されていなかったとした。

※内関鍼治療:内関という手首付近にあるツボ。つわりの特効穴として有名です。

ポイント

結論からいうと、微妙な結果だったということですね。ただ、効果を実感している鍼灸師は多いでしょう。有害事象の報告がないことから、やって損はないと解釈してもよいでしょう。

ちなみに、内関穴の効果を利用した「つわり緩和バンド」というのがAmazonなどで購入できます。

 

3. 妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療の有効性と安全性のエビデンス

Wedenbergらの「鍼治療は、理学療法よりも、 妊娠に伴う夜間の骨盤痛を改善することが示唆される」、Eldenらの「鍼治療を受けた者は、運動。 療法を受けた者よりも夕方の強い骨盤痛を有意に減少させた」、Kvorningらの「鍼治療を完了した女性の60%に疼痛強度の低下がみられた」の3 論文であった。

後者は、Lundらの「深い鍼と浅い鍼とでは、夕方の骨盤痛に有意差がなかった」 とEldenらの「鍼治療+通常のケアと偽鍼治療 +通常のケアとの比較では、疼痛緩和に有意差がなかった」の2論文であった。

Liddleら”は、それらの報告から、研究設計の限界、効果推定の不正確さなどにより質の低い証拠しかないとした。

有害事象については、軽微な一過性の事象(刺入部位に小皮下血腫/挫傷) の訴えを報告した Wedenbergらの論文と、分娩あるいは新生児のいずれにも問題はなかったが、鍼治療を受けた女性の38%に軽度で一過性の副作用 (局所痛、熱や発汗、局所血腫、疲労、吐き気、衰弱)がみられたKvorningらの論文が紹介されていた。

 

ポイント

1:夜間の骨盤痛には、理学療法より針治療が改善できると示唆される。

2:深く刺すと浅く刺す針治療での有意差なし。

論文をくわしく読むと、浅い鍼が円皮鍼でした。

※円皮鍼とは、小さな鍼のついたシールタイプの鍼です。

3:鍼治療+通常のケアと偽鍼治療 +通常のケアを比較すると、疼痛緩和の有意差なし。

4:鍼治療を受けた女性の38%に軽度で一過性の副作用 (局所痛、熱や発汗、局所血腫、疲労、吐き気、衰弱)がみられた。

一定数の患者さんで、一過性の副作用がありました。38%が高いか低いかはわかりませんが、「針治療に副作用がない」といっている鍼灸師は再考してみませんか?

 

安全性について

Smithらは、前述の4群間で周産期転帰、先天性異常、妊娠合併症および新生児について比較した結果、妊娠初期の鍼治療によって重大な有害作用は生じないことを示唆している。また、Elden らは、前述の研究に参加した386例の分娩、分 娩所要時間、早産、手術分娩、アプガースコア等の項目を出産後に検討した結果、3群で有意差はなかったと報告している。
一方、Parkら"は、2013年までのデータベース から抽出した105編の論文のうち、25編の2,460人 の妊婦、22,283回の鍼治療における有害事象の報告を調査した。その結果、有害事象の発生率は 429件(1.9%)で、鍼によると考えられる有害事象は1.3%、それらの重症度は、軽度または中程度で鍼刺痛が最も多く、重度の有害事象または死亡の報告があるものの鍼治療によるとは考えられていなかったと、報告している。
しかし、有害事象の有無を示していない論文も あり、今後は有効性とともに安全性の検討が必要である。

 

ポイント

1:有害事象の発生率が1.9% 22,283回の針治療中、423件

比較対象になるかわかりませんが、「モデルナアーム」など副反応で話題になったモデルナワクチンの国内における臨床試験の結果だと、
ワクチン2回目時の疼痛:85%
ワクチン2回目時の発熱(38.0℃以上):40.1%

モデルナワクチン

そもそもの比較対象が違いますが、針治療の副作用は少ないです。だけど副作用があるのも事実です。

画像引用:厚生労働省 武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて

引用:妊婦に対する鍼灸治療の現状 笠井 靖代、小井土善彦、前田 尚子”、田口 玲奈、形井 秀一全日本鍼灸学会雑誌68巻4号第66回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 東京大会

 

2. 子宮類線維腫に対するはり治療

2. 子宮類線維腫に対するはり治療。「子宮類線維腫に対するはり治療の効果を示す信頼できる証拠は存在しない」と論文は指摘している。子宮類線維腫については効果ある治療法が多数あり、はり治療で治癒できるかもしれないという主張はナンセンスだ。

針治療の場合、瘀血に対応する治療法で伝えられています。

※瘀血:おけつといい、滞った悪い血液とお考えください。

Google Scholarで、子宮類線維腫を子宮筋腫として検索。

続発性月経困難症に対する鍼治療の一症例
子宮筋腫に対する東洋医学の臨床的研究
婦人科疾患と鍼灸良導絡治療

ちょろっと出てきますが一症例などもあり、針治療の効果があるという根拠にはむずかしい状態でした。

 

3. 過敏性腸症候群(IBS)に対するはり治療

3. 過敏性腸症候群(IBS)に対するはり治療。先行研究からは「IBSへのはり治療は、総体的症状、痛み、生活の質において、偽薬(プラシーボ)と比べ有意な効果はない」ことが分かっている。

小児の過敏性腸症候群に対して 鍼灸治療が有用であった 症例
高齢者の過敏性腸症候群に鍼灸治療が有効であった2症例
過敏性腸症候群の患者に対する鍼灸治療の効果 ―条件反転法による検討―

ストレス社会で過敏性腸症候群になる患者さんも多く、何度か施術させていただいて良好な結果を体験しています。しかし、論文検索すると、症例も少なく「偽薬(プラシーボ)と比べ有意な効果はない」といわれると、意見をくつがえすのがむずかしい現状です。

「IBSに針治療は効果ない」といわれると真っ向から反論できないですね。

 

4. 滲出性中耳炎(OME)に対するはり治療

4. 滲出性中耳炎(OME)に対するはり治療。これは子どもによく見られる病気だが、過去の研究でははり治療の効能は確認されず、「OME患者の治療に用いられるべきではない」との結論が出されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1952/3/1/3_1_55/_pdf/-char/ja

Google Scholarで検索しても検索結果がなく、中耳炎でヒットする程度でした。

中耳炎に対する針治療の効果はあると思います。だけど、根拠は経験則だけというのが実際のところです。

中耳炎にかかわらず、ほかの症状でも専門医で保険診療をしたほうが患者さんの負担も少なくすみます。無理に針治療をすすめることはないでしょう。

その結果、鍼灸院に来院することも少なく、結果的に臨床データもほぼ集まらないです。

 

5. 男性における下部尿路の症状に対するはり治療

5. 男性における下部尿路の症状に対するはり治療。これも効果はない。いったいどこにはりを刺すのだろうか…。

 

鍼による尿管異物結石の1例 Author(s) 湯澤, 政行; 原, 暢助; 小林, 裕; 石山, 俊次; 戸塚, 一彦;
間質性膀胱炎に対する鍼治療の検討

この懐疑的な意見にも反論できないですね。そもそも鍼灸院をたずねることも皆無でしょう。

来院しても薬との併用が考えられるので、針治療の効果で治った! といえない状況になるでしょう。

 

6. 高ビリルビン血症に対するはり治療

6. 高ビリルビン血症に対するはり治療。「黄疸(おうだん)」とも呼ばれるこの症状は、新生児に多くみられる。生まれたての赤ちゃんにはり治療を行うなど、率直に言って原始的で残酷だ。論文は「高ビリルビン血症に対するはり治療を支持する証拠は存在しなく、NICE(国立医療技術評価機構)はこの治療法をこの人口層に使用しないことを勧告する」と結論している。

黄疸の灸治と神蔵穴の使用例

すごい鍼灸師でも一生に一度あるかないかの症状でしょう。黄疸に関しては、主訴が別にある患者さんなら診させていただきましたが、新生児への治療の場合、小児鍼という施術法があります。(刺さない鍼を使用します)

小児鍼が得意な鍼灸師なら、症例数をいくつかお持ちかもしれません。

 

7. 手根管症候群に対するレーザーはり治療

7. 手根管症候群に対するレーザーはり治療。複数の先行研究で、効果がないことが確認されている。うち一つの研究では、「さらに厳密な研究が必要とされる」との結論が出されているが、望みの薄い治療法の検証に時間をかける必要はないのではないか。

手根管症候群に関しては症例発表もありませんでした。

※書籍や雑誌などにはあります。

何度か治療をさせていただき治癒しましたが、本当に手根管症候群だったのかは診断権がないのでわかりません。患者さんが「整形外科でいわれた。」というのを信じるしかありません。

整骨院勤務のときに、手根管症候群の手術をしたのに動きの制限やしびれが残る人もいました。

 

8. うつ病に対するはり治療

8. うつ病に対するはり治療。多くの研究が存在するが、大半に「高い偏りのリスク」があり、全てにおいて、はり治療はうつ病に効果がないとの結論が出されている。なんとも憂鬱な話だ。

不定愁訴に対する鍼治療の一症例

仮面うつ病に対する鍼灸治療
うつ病と双極性障害うつ状態に対する標準治療による助走期間を考慮した鍼治療3ヶ月間の上乗せ(add-on)効果と持続効果

はり治療はうつ病に効果がないとの結論が出されている。執筆者さんも憂うつになってしまったようです。

自律神経失調症やうつ病のかたの場合、心因性だけでなく体の機能低下によって辛さを訴える人が一定数します。

  • 体の機能低下の場合、効果は早くあらわれると実感しました。
  • 心因性の場合、適切な医療機関との併用が必要になるでしょう。

個人の感想としては、ぜひ鍼灸治療をおすすめしたいのですが、「針治療の効果ないでしょ?」といわれると個人の感想しか伝えられないのです。

 

9. 変形性関節症に対するはり治療

9. 変形性関節症に対するはり治療。驚くべきことではないが、変形性関節症におけるはり治療には、プラシーボ以上の効果はない。

変形性膝関節症の圧痛点の分布と圧痛点鍼治療

変形性膝関節症に伴う痛みと運動機能に対する鍼治療の効果
変形性膝関節症に対する低出力レーザー治療と鍼治療の比較検討
変形性膝関節症に対する運動療法を併用した鍼灸治療
変形性膝関節症に対する鍼治療のランダム化比較試験論文の概要

論文がもし「変形性関節症の変形が治る」を基準にしているなら、変形は治りません。構造的に変化・欠損しているので不可能です。
だけど針治療は注射を使わなくても疼痛緩和が可能になり、適切な運動療法の指導によって、杖なしでも歩ける経験は何度もみています。

論文発表もそこそこあり、整形外科疾患と針治療の相性がよいとわかりますね。

 

10. ベル麻痺(顔面神経麻痺)に対するはり治療

10. ベル麻痺(顔面神経麻痺)に対するはり治療。8件の試験が行われたが、いずれも信頼できる効果は確認されなかった。患者にこれ以上の試験を強いるのは残酷かつ非倫理的だろう。

後遺症を有する末梢性顔面神経麻痺に対する低周波鍼通電療法の1症例
陳旧性顔面神経麻痺の鍼治療
良性耳下腺腫瘍術後の顔面神経麻痺に対する鍼治療の1症例
末梢性顔面神経麻痺の鍼治療効果に関する研究

私自身も厄年のころ顔面神経麻痺を経験しています。

「針治療だけで治癒できるか」試したい気持ちはありましたが、ステロイド剤と針治療を併用しました。

現在はたまに耳鳴りがする程度ですが、針治療との併用で早期に回復したと思っています。(いや思いたい。)
比較できないからしかたありませんね。

一般のかたが顔面神経麻痺に針治療がいいと思うことは、大変少ないでしょう。

治療としては、パルスを使った針治療が一般的です。しかし、発症から月日が経ってからが多いので、良好な結果を出すのがむずかしいのが現状でしょう。

 

オーストラリアの研究チームが医学誌「Medical Journal of Australia」に発表した論文より
引用:絶対に受けてはいけない10のはり治療 - Forbes JAPAN

 

針治療効果ないというご意見に対するまとめ

  1. WHOのあやうさ
  2. 圧倒的に臨床試験(論文)が少ない
  3. 実際の針治療と臨床試験の施術方法が違いすぎる
  4. 針治療とひと括りにできないほど流派が多い
  5. 針治療は「副作用がない」「無痛」と言い切る鍼灸師がいる
  6. ”気”で説明するからインフォームドコンセントが成立しない
  7. なぞの医学理論で洗脳する
  8. 針治療に懐疑的・批判的なお話を論破できない
  9. 針治療の効果がないといわれる症状

現役の鍼灸師として「針治療の効果がない」といわれる原因をお伝えしました。

そもそも紀元前に体系化された理論がベースなので、一般受けしづらいでしょう。

鍼灸師でも「わけわからん」という先生もいるくらいです。

結果的にいろいろな流派ができてしまい、統一された施術ではないのが現実です。その結果、臨床データも少なく、あったとしても実際の施術と違っているでしょう。

個人的には「針治療の効果がない」わけじゃなく、技術と経験の差によって「針治療の効果」に差が生まれています。

 

私の場合、西洋医学的、東洋医学的両方の側面から診て、矛盾のない状態かどうか確認します。

気や血も考慮するため脈や舌なども診ますが、それに関して患者さんに説明することはしません。理解してもらえないからです。

現代医学的な説明や可動域や圧痛など、「理解できるもの」または、「素人でも調べたら必ずわかるもの」で説明する努力をします。

現役の専門医の先生や、「2ちゃんねる」開設者ひろゆきさんでも納得していただける説明や、治療ができれば「針治療の効果はない」といわれなくなるでしょう。

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