針治療副作用はあります!鍼灸師197名と医師1135名のデータと6つの課題

治療に副作用はあります。客観的なデータからも証明されていますが、「副作用はなく安心安全」と根拠のない持論を展開する鍼灸師も一定数いるのも事実。

なぜ、そう思うのか? そこには「好転反応:こうてんはんのう」と呼ばれる体調の変化も関係していました。

今回は、針治療の副作用をまとめた論文からのデータを紹介。さらに、針治療の副作用を防ぐための6つの課題を現役の鍼灸師視点でお伝えします。

針治療の副作用はあります

一部の鍼灸師は、「針治療は副作用がなく安全です」と言い切っている先生もいます。しかし、副作用の定義の問題かもしれませんが、誤解をまねく説明です。

針治療には副作用があります。しかし、適切な手技や診立て、そして道具(鍼)によって副作用を減らすことができるので、一般のかたも安心してください。

副作用についてマニアックな話しをすると、鍼灸師のなかには、針治療の副作用を「好転反応:こうてんはんのう」と伝える場合もあります。

好転反応とは

Wikipediaの説明にはこうあります。

好転反応(こうてんはんのう)とは、治療の過程で一時的に起こる身体反応のこと。反応の程度はさまざまである。
漢方薬の知識体系で瞑眩(めんけん、めんげん)と言い、病状の改善が現れる前の一時的な悪化であり、経験上3-4日まで持続することが多い。この瞑眩という言葉は18世紀の漢方医である吉益東洞により日本で広く知られるようになった。

引用:Wikipedia

Wikipediaの説明が正しいのなら「好転反応」は、漢方薬の言葉です。

漢方薬(中薬)には、好転反応は存在します。

漢方薬の場合、
8つの治法
① 補 法 : 補益による虚証の治療
② 温 法 : 温陽による寒証の解消
③ 清 法 : 清熱による熱証の解消
④ 消 法 : 停滞の除去と排出
⑤ 汗 法 : 発汗による邪気の除去
⑥ 和 法 : 複数病証の併存を解消
⑦ 下 法 : 瀉下による病邪の除去
⑧ 吐 法 : 催吐による病邪の排出
というものがあります。

出典:第68回日本東洋医学会学術総会スポンサードセミナー 漢方の美しさ(三)座長:三谷 和男 先生(医療法人三谷ファミリークリニック 院長、公立大学法人 奈良県立医科大学、大和漢方医学薬学センター 特任教授)演者松橋 和彦 先生(長野県厚生農業協同組合連合会 佐久総合病院 内科)

下法(下痢を引き起こす)、吐法(嘔吐を引き起こす)などは、一般的には薬を飲んだことによる副作用と思われがち。しかし、漢方治療には、必要な施術の方法になるでしょう。

漢方の好転反応と、針治療の好転反応は違っている印象を持ちませんか?

鍼灸治療の場合、刺激量過多(オーバードーゼ)になる可能性があるため、保険的な言葉として使われる場合が多いです。

個人的には、

  • 漢方薬の好転反応:狙って引き起こす反応
  • 針治療の好転反応:刺激量のコントロールができないため、保険的な意味で使う
針治療では、好転反応がなくても十分効果があります。むしろ上手な先生ほど”鍼灸師がいう”好転反応がありません。

ちなみに、針治療で気胸(肺に穴があく)や、鍼が折れるなどは、副作用でも好転反応でもなく、医療事故ですが一般のかたからすると同じように思われるでしょう。

 

針治療の副作用の種類

針治療の副作用とは、どのようなものがあるのでしょうか?

関西鍼灸短期大学助教授 吉備登先生が発表した、「鍼灸治療における過誤・副作用の予防と対処について」には、日本国内だけでなく、海外の針治療の過誤・副作用について言及しています。

出典:鍼灸治療における過誤・副作用の予防と対処について

鍼灸師197名と医師1135名の鍼治療の有害作用のアンケート

1995年の英国の「Lancet」に掲載された、ノルウェーにて無作為に選ばれた鍼師197名と、医師1135名の鍼治療の有害作用のアンケートを紹介しましょう。

鍼灸師のアンケート結果
  • 気絶132名(65.6%)
  • 痛みの増悪25名(12.4%)
  • 嘔吐・悪心25名(12.4%)
  • 気胸8名(3.9%)
医師のアンケート結果
  • 局所皮膚感染66名(32.6%)
  • 痛みの増悪31名(15.3%)
  • 気胸25名(12.4%)
  • 精神的問題20名(9.9%)
  • 軟骨膜炎16名(7.9%)

ノルウ ェーにて無作為に選ばれた鍼師197名と、医師1135名の鍼治療の有害作用のアンケート

特徴として、鍼灸師のアンケートは急性症状が多く、医師は後日発生したような症状が多いとわかります。

針治療の副作用は、当日だけでなく後日発生することもあると、鍼灸師は覚えておかなければいけません。

「針治療の副作用はない」と、豪語する先生は、患者さんは1回だけで怖くなり、来院しなくなったのかもしれませんね。

 

また、日本では1994年に「医道の日本※」(※鍼灸やマッサージ業界で有名な雑誌)がおこなったアンケート結果がこちら。

2184通のうち46%の1010名が医療事故の経験があると掲載されています。

  • 脳貧血(当時の文献での表記)67%
  • 火傷41%
  • 折鍼14%
  • 気胸12%
  • 化膿10%
  • 骨折7%

 

【131の論文のリサーチ結果】日本における鍼灸治療過誤などに関連する文献

安全管理に関するもの(31.3%)がもっとも多く、折鍼(22.9%)、感染(15.3%)、気胸(8.4%)、神経障害(6.8%)、灸による有害作用(5.3%)、治療過誤(6.9%)などの文献が多く認められた。

医事紛争の調査
  • 折鍼36.0%
  • 気胸22.3%
  • 熱傷13.7%
  • 悪化11.1%
  • 化膿5.6%
  • 出血4.3%
  • その他6.8%1974年~1990年までの約15年間の全日本鍼灸マッサージ師会の110番補償制度の事故調査総数:161件

1974年~1990年までの約15年間の全日本鍼灸マッサージ師会の110番補償制度の事故調査総数:161件

 

また別の団体だと、

  • 折鍼34.3%
  • 気胸13.9%
  • 火傷7.7%
  • 化膿6.7%
  • その他12/0%
  • 按摩などによる骨折12/8%
  • 不明7.2%
  • 管理上4.7%
日本鍼灸師会系の1976年~1989年までの約14年間の医事紛争件数調査 総数:359件
日本鍼灸師会系の1976年~1989年までの約14年間の医事紛争件数調査 総数:359件
さすがに裁判沙汰になる事案だと、針治療の副作用ではなく、医療事故が多くなりますね。

いまから鍼灸治療を検討されている一般のかたからすると、「針治療こわっ」と思われてしまうでしょう。

ただ、私個人もこのデータには驚きました。

しかし、鍼灸治療を検討されている一般のかたにいいたいのは、1番多い「折鍼」も年々「鍼」の質が向上しています。だから、折鍼は滅多にないことだと考えてください。(いやそう思いたい。)

一般のかたからすると、針治療の副作用は、だるさや痛みの悪化だけではありません。折鍼や気胸など医療事故も含めて副作用と考えているのではないでしょうか? そして、医療事故を含めて針治療の副作用と、鍼灸師も思わないとダメでしょう。

しかし、現状でも「針治療は副作用も少なく、痛くありません。」と言い切る鍼灸師が多いのはなぜでしょうか? それには一般のかたと鍼灸師との間に、認識のズレがあるからでしょう。

 

針治療の副作用に対する鍼灸師の認識のズレ

さきほどお伝えしたように、針治療の副作用は折鍼や気胸などの医療事故も含まれると考えています。しかし、一般の認識と一部の鍼灸師の認識にズレがあるように感じました。

一般のかたの副作用 鍼灸師
ダルさ痛みの悪化 一時的なもので好転反応だという
鍼は痛い・注射のイメージ※1 無痛という※2
針治療で痛みが悪化、1回で離脱※3 1回で治ったと思う

※1:痛みの感受性は個人差が大きいので、刺さない鍼でも痛いという人はいる。

※2:鍼を刺していないから無痛治療という

※3:針治療で余計痛くなった。やっぱり怖いからいくのをやめよう。

円滑なコミュニケーションと説明(インフォームドコンセント)によって、認識のズレはなくなるでしょう。しかし、針治療の副作用を防ぐには、そのほかにも課題があります。

 

針治療の副作用を防ぐ6つの課題

考えられる針治療の副作用を防ぐ課題は、6つあります。

1.鍼自体の進化によるメリットデメリット

針治療の副作用に関して、鍼の材質や質の向上があります。

メリット デメリット
折鍼の確率が減る 猿でも誰でも鍼が打てるようになった
痛みを感じにくい工夫がされている リスクの高い場所にも打てるようになった
滅菌処理の向上
細い鍼が誕生して、痛覚過敏な場所にも打てるようになった

現在、一般的に使われる鍼は、簡単に打てる針先や材質になっています。

簡単にズブズブ刺すことも可能なので、未熟な技術でも無茶ができるでしょう。しかも、リスクの高い部位(顔面部)にも打てるので、内出血などを含む副作用も増えてしまいます。

 

2.鍼の手技が下手

現在の鍼は、本当に簡単に刺せます。刺すだけなら技術もなにもいりません。

私の卒業した学校では、針治療の実習だと「銀鍼」を使っていました。(一般的にはステンレス製の鍼が多いです。)そして、寸6-2と寸3-1、寸3-0と呼ばれる長さと細さの銀鍼で練習します。

今はたぶん刺せません(笑)と自信がなくなるくらい、むずかしい鍼でした。結果的には技術の鍛錬になりました。

はじめてセイリン製寸3-1を使ったとき、簡単に刺さるので怖さを覚えたほどです。銀鍼じゃなければ、鍼を打つ姿勢が雑でも刺入できます。

残念ながら銀鍼は、臨床だと実用的ではありません。衛生面や耐久性を考えると使いづらい鍼です。だけど、鍼を打つ姿勢や押手の構えなど、技術向上にはもってこいです。とくに鍼灸学生のうちは、銀鍼での練習を強くおすすめします。

 

3.本数が多すぎる

針治療の副作用を減らすには、使用する鍼の本数を減らすべきです。

本数が多ければ、医療事故・針治療の副作用の確率も高くなり、集中力も低下します。

1回の治療は、4本までにしてみるのはいかがでしょう。

鍼灸オタクならご存知と思いますが、昔韓流ドラマで「ホジュン」という鍼灸や漢方をテーマにしたドラマがありました。

ホジュン

画像引用:ホジュン

「ホジュン」は実在した人物で「東医宝鑑」を執筆しました。(1613年刊行)

そのなかの鍼灸篇「主病要穴」には、

『東医宝鑑』鍼灸篇「主病要穴」
百病一鍼焉 率多則四鍼 満身鍼者可悪
どんな病気も一鍼でよい 多いときでも四鍼を決まりとする。満身に鍼をすると悪くしてしまう。

学校で習った治療方法だと、鍼の本数が多くなる印象です。

その1本の鍼は必要なのか? なぜ両側に鍼を打つのか? 自問自答しながら洗練していくと本数は減ります。

古典に書かれた教えを実践してみませんか?

 

4.バージョンアップされていない

ベテラン先生に多い印象ですが、知識のバージョンアップが停止しています。

令和の時代でも、

  • オートクレーブで滅菌処理した鍼を複数回使う
  • ベタベタ鍼体をもって刺入する※鍼体とは、体内に入っている箇所のこと
  • 一度抜いた鍼を別の部位に刺す

しっかり消毒もして鍼も刺さったのに、体内に刺入するために鍼本体を触ると消毒の意味がなくなります。

指サックを使うか、片手で鍼を操作するのが理想です。

 

5.針治療の副作用についての説明不足

針治療が終わって、そのまま「お大事に!」はダメです。

百歩譲って好転反応という言葉を使ってでも、副作用の説明は必要です。

  • 説明も施術後ではなく、施術前が理想
  • 終わったあとの説明は「言い訳」と思われる
  • 施術前の説明は「予測」「想定内」と思われる

先回りしたフォローができるとよいでしょう。

 

6.コミュニケーション不足

針治療で来院しているから「金属アレルギーはないだろう」とか、「出血が止まりにくいことはないだろう」とか、思い込んでいないでしょうか?

事前にコミュニケーションがとれていれば、防げる針治療の副作用でしょう。

  • 金属アレルギー:皮膚がかぶれる
  • 抗凝固薬のワーファリンを服用中:内出血のリスクが高くなる

針治療に限らずコミュニケーションが不足すると、予想外のトラブルになるのでできるだけ情報共有しておきましょう。

 

針治療の副作用についてのまとめ

針治療の副作用は残念ながらあります。発表された論文をみて、現役鍼灸師でも驚く件数でした。

  • 適切な材質の鍼を使う
  • コミュニケーションで信頼関係を構築する
  • 鍼の本数を減らして技術向上につとめる

一般のかたには、ややむずかしい言葉もあったかもしれません。だけど、ほとんどの鍼灸師は、日々鍛錬しています。

疑問があれば、どんどん事前に質問してください。(ただし、どこの鍼灸院も電話だと施術中のこともあるのでメールがよいと思います。)

疑問がなくなれば、コミュニケーションも増えますよ。

リスクのない治療は世の中に存在しません。ぜひ針治療のリスクを理解して、鍼灸治療を体験してください。

 

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